胡蝶蘭




帰ろうということになったのは、もう夕飯時になってからだった。



その頃には、偉槻の両手には服の入った紙袋が2、3ぶら下がっていた。



「結構買ったな、偉槻。」



にぱっと笑う顔が愛しくて。



偉槻は片手で誓耶の頭を撫でた。



来たときに荷物を預けたので、それを取りに向かう。



誓耶は来たときには少し委縮していたのに、先に入って行ってしまった。



「おい、斉木。」


「なんだよ、偉槻。
お前の腕になんか下がってんだけど、俺の幻覚か?」



斉木は普段偉槻が服を買わないということを指摘しているらしい。



顔がニヤニヤとしている。



偉槻はさらっとその茶化しを受け流して、荷物を要求した。



「ったく、はいはい。」



斉木はふくれて奥に入っていった。



誓耶は、と見渡すと、置いてあるギターを興味津々といった感じで眺めていた。



「これ、偉槻が弾くといい音出すんだもんなぁ。」



誓耶が爪弾くと、ベンベンという音しか出ない。



不思議そうに顔をしかめるのが可笑しくて、偉槻はそっと笑った。



「なぁ、偉槻。
持ってるギターはここで買ったのか?」


「いや?
もらいものもあるな。
でも、ほとんどここだ。」


「へぇ、じゃあこいつらは偉槻のギターの兄弟か。」



兄弟って、変な表現だな。



「おい、偉槻、荷物。」



振り返ると、何かが飛んできた。



泡を食って受け止めると、ダウンだった。