胡蝶蘭

身体が竦む。



慎吾は長く息を吐き、誓耶を睨んでいる。



言わなければよかった。



頭に浮かぶのは後悔。



誓耶はさっと立ち上がった。



慎吾は怒ったように誓耶を呼んだ。



でもそんな事にかまわず、誓耶は店から走り出た。



追いかけてこられるのが怖くて振り向けない。



もう学生の下校時間らしく、制服姿の人に何度もぶつかった。



誓耶は体力の許す限り遠くまで逃げ、慎吾が追いかけてきていないのを確認して、ベンチに座った。



怖かった…。



あんな顔、初めてだ。



なんであんな顔すんの。



あたしが悪いわけじゃないのに。



しばらく慎吾には会えないな。



一番それがつらい。



誓耶は頭上でさわさわと揺れる藤棚を見上げた。



慎吾、怒ってるんだろな。



残してきた様子を想像する。



…出来ない。 



喧嘩して殴りかかっている様子は何度も見てきた。



だが、自分が実際に怒られたことはない。



口、きいてもらえないかな。



誓耶は身体を折り曲げ、手を口に当てた。



これは誓耶の癖で、小さい頃から治らない。