胡蝶蘭

ただ、誓耶の手が凍えないように祈るだけだ。



祈ったところでどうにもならない。



偉槻はせめて足を速めた。



「着いて、何する?」



唐突に、誓耶は偉槻を見上げた。



油断していた偉槻は、慌てて誓耶から目をそむける。



心臓が大きく音を立てた。



「おい、聞いてんの?」


「ああ。
お前が決めろ。」


「あたし、あんまりこういうとこ来ないもん。」


「俺もだよ。」



買い物は近くのスーパー。



日用品は近くの商店街。



服なんか、家を出て以来数えるくらいしか買ったことはない。



今日着ている服だって、高校のときに気に入って買ったものだ。



もう背丈の限界が来ているが。



基本物持ちがいいので、偉槻はこういった人の多いところには出向くことはなかった。



「…なんか、普段こういうとこに来慣れてないのが寄ってくると、案外大変だな。」


「あぁ。」



…田中にでもデートコース訊いてくるんだった。



あいつに頼るのは癪だが、気まずい思いをするよりはマシだ。



「あ、昼は?
食べたの?」


「いや、さっき起きて出てきた。」


「…起きるの遅せぇよ。」


「るっせぇ。
昨日何時まであそこいたと思ってんだ。」



さすがに眠そうな誓耶を12時手前に家まで送り、そのあと日付が変わっても4時間以上あそこにいたのだ。