胡蝶蘭

ちらちらと偉槻を窺っているのが横目にわかった。



なんもしねぇよ。



笑いをこらえて、観察する。



しばらく警戒していたようだが、偉槻がなにもしてこないのをみると、誓耶は身体の力を抜いた。



「うひょっ。」



ビル風が吹き抜け、誓耶は変な声を上げた。



たまらずに吹き出す。



「なんだよ、お前今の。」



遠慮せずに笑う偉槻の足を踏んで、誓耶は喚いた。



「だって!
だってだって、あたしが力抜いた途端に風吹いたんだ!」


「風のせいにするなよ。」


「だって!」



おっかしいの。



片意地張ってたのがウソのようだ。



年相応の女に見えてきて、実は偉槻は焦っている。



自分の中で誓耶が特別な存在になっていくのがわかるのだ。



認めたくなくて、でも明らかに彼女の存在は偉槻の中で大きくなっていく。



偉槻は隣を歩く誓耶を見下ろした。



誓耶は偉槻の視線に気づかずに歩き続けている。



時折、誓耶は手に息を吐きかけていた。



寒いんだな。



これが月9のドラマなら、誓耶の手をとってポケットに入れてやるんだろう。



が、偉槻にそんなキザな真似はできない。