胡蝶蘭

誓耶は偉槻を風よけにして歩き出した。



「…お前なぁ。」


「寒いもん。」


「俺はどうなんだよ。」


「だって、偉槻自体が氷の塊だから、寒さはオトモダチだろ。」



腕を振り上げると、誓耶はきゃーと悲鳴を上げて飛び退った。



やるか?と拳を握っている。



「馬鹿め。
俺に敵うとでも?」


「あたし、喧嘩はそこまで弱くないよ。」



ああ、知ってる。



慎吾から聞いた。



「それになにより、後ろに匡いるんだぞ、どこに殴り合いの喧嘩始めるカップルがいんだよ。」


「…それもそうだな。」



一瞬きょとんとした顔をして、誓耶は偉槻の隣に並んだ。



「寒~。」



無意識にか、誓耶は偉槻に身体をくっつける。



…なんだこいつ。



案外寂しがり屋だな。



偉槻は笑って、軽く身体をぶつけてやった。



よろよろと放れていった誓耶だったが、すぐにもとの位置に戻る。



面白くなって、数回繰り返してやると、さすがに抗議してきた。



「なんだよ、飛ばされるあたしはもう足ふらふらだぞ。」


「はいはい。」



誓耶は様子をみながら、再び偉槻の傍にやってくる。