胡蝶蘭

誓耶はそっと偉槻を見上げた。



千博に諭されて、気まずそうに頭を掻いている。



「ね、偉槻。」


「ん?」



みんなが休憩に散ったとき、誓耶はこっそりと偉槻に話しかけた。



小声の誓耶につられたのか、偉槻も声のトーンを落とす。



「いっつもここで楽器弾いてんのか?」


「いや?
今日は久し振りに会った。
もう半年くらい会ってなかったかな。」


「へぇ。」



そう頻繁ではないようだ。



それにしてはそのブランクを感じさせないなと、誓耶は感服する。



「いいなぁ、偉槻は。」


「なにが?」



二人でぶらぶらと座る場所を求めて歩きながら、誓耶は空を仰ぐ。



一度ちらりと偉槻を見て、誓耶は目をそらした。



「夢中になれるもんがあって。
おまけに仲間までいる。」


「…お前はないのかよ。」



誓耶ははたと立ち止って考えた。



自分になにがある?



やりたいことなんて、ぱっと思いつかなかった。



特技なんてたいそうなものはない。



趣味…って、音楽聞くことくらい。



何も、思いつかなかった。



「ない、な。」


「そうか?
歌は?」


「聞くのは好き。」


「さっき歌っただろ。」


「あれはたまたま。
あんたらの演奏が気持ちよかったから、つい。」