胡蝶蘭

「な、この子歌えんの?」



健は偉槻を振り返った。



偉槻は肩にかけたギターを下して、誓耶を手招く。



誓耶は素直に傍に寄った。



「知らねぇ。
実はあんまりこいつのこと知らねぇんだ。」


「へぇ。
じゃ、才能見つけたのは俺?」


「馬鹿野郎。」



偉槻はふざけて健を蹴っ飛ばし、誓耶に視線を移した。



「お前、歌うまいな。」


「ホントに?」


「ああ。
なぁ、祐司?」



おうよ、と腰かけた祐司が手を上げる。



それをみて、誓耶はなんだかうれしくなった。



「ホントに!?」


「ああ。
案外近くにボーカルいたな。」


「な。」



くっくっと偉槻が笑う。



誓耶は俯いてにやけた頬を押さえた。



「で、そういやなんでお前ここに来たんだ?」



隣で今更かよと健が突っ込む。



「何か急用か?」


「ううん。
ただ、会いたくなっただけ。
悪かったか?」


「いや。」