胡蝶蘭

どうしよう。



考え込んだ誓耶に、健が助け舟をくれた。



「どんなバンドが好きなの?」


「えっと、**。」


「じゃあ、それを適当に。」



行くぞ、と健は他のメンバーと目配せしあい、ギターを掻いた。



わあっと誓耶は感嘆の声を上げる。



それを見て、健は嬉しそうに笑った。



この曲、知ってる。



何度もCDを聞いた。



crescendoも、accentも、頭の中に記憶されている。



自然と身体が揺れて、リズムをとった。



空気がギターに震わされる。



あ、このパート好き。



ハモりの部分が近づくにつれ、誓耶も興奮する。



ここだ!



無意識に自分の喉から歌声が発せられる。



偉槻は驚いて目を見開いたが、そのまま歌い続けた。



気持ちいい。



偉槻と、みんなと歌ってる。



いつの間にか、曲が終わろうとしている。



誓耶立ち上がって、最後の音を聞いた。



「うまいじゃん、誓耶!」



健はピックを指に挟んで遊びながら、誓耶に近づいた。