胡蝶蘭

背中を向けた偉槻はもう振り返らなかった。



顔が、変わった。



誓耶なんか見もしない。



恍惚とした表情で仲間と演奏を再開した。



聞きなれたメロディーが、生演奏となって誓耶の耳に響く。



この間歌ってくれたときとは明らかに雰囲気が違う。



決してはしゃいでいるわけではないのに、偉槻が本当に楽しんでいるということが伝わってきた。



誓耶は三角座りをして、偉槻を眺めた。



この間よりも格段に声が通っていて、カッコいい偉槻を眺めた。



自然と歌を口ずさむ。



CDで聞きなれたこの曲が、特別に感じた。



最後の音が、爪弾かれる。



残響が、倉庫に響いた。



偉槻が閉じていた目を、開ける。



その目はどうだと誓耶に訊いていた。



誓耶は言葉が見つからず、無心に拍手を送る。



偉槻は満足そうに笑った。



「誓耶ちゃん、次は何がいい?」



千博が声をかけてくれた。



最初は誓耶がここにいることに不満な様子だった祐司も、誓耶のリクエストを待っている。



偉槻も視線で促した。