胡蝶蘭

「言い寄ってきた奴じゃないの、珍しい。」



ひゅうっと、彼は口笛を吹いた。



誓耶は呆気にとられて彼を見つめているしかなかった。



くるりと偉槻は振り返る。



「こいつは健、同い年。
俺の仲間。
ギター。」



手短に、偉槻は最低限の情報を口にする。



誓耶は促されて名乗った。



「よろしく。」



可笑しそうに偉槻の肩を叩きながら、健は誓耶の頭を撫でた。



いつもなら身体が過敏に反応するのに、今日はされるがままになった。



このおかしな雰囲気にのまれたせいだと思う。



「こっちがドラムの千博。
で、こいつは俺らのまとめ役の祐司。
こいつだけ一歳上だ。」


「よろしく。」



ドラムの前に座った千博がにっこりと誓耶に笑いかけた。



つられて、誓耶もぎこちなく微笑む。



祐司は無言で会釈した。



緊張したままの誓耶の頭に手を置き、偉槻は近くのドラム缶を差した。



「そこにでも座ってろ。
今、お前の好きな曲やってたんだ。」


「ホント!?」



誓耶は顔を輝かせて偉槻を見上げた。



「ああ。
邪魔しないでおとなしくしてろ。」


「うん。」



偉槻の機嫌を損ねたら歌ってもらえなくなる。



誓耶は言われるがままに駆けて行った。



偉槻は満足そうに頷く。