胡蝶蘭

「あ、う。
帰る。」


「入ってけ。」



誓耶は驚いて振り返った。



仲間らしい男が、不満そうに声を上げる。



「なんだよ、女連れでかよ。」



誓耶は胸が締め付けられるような感じがした。



「いいよ、あたし帰る。」



偉槻にだって、仲間はいる。



いつの間にか、偉槻は自分のものになったような感じがしていた。



誓耶が入り込める隙は、きっとない。



わかってるだろ、あたし。



「いていい。
お前、音楽好きだろ。
聞いてろ。」



仲間を一切無視して、偉槻は言う。



「こいつ、ただの女じゃない。」


「なんだっての?」



偉槻の隣に立った男が、興味を示す。



「変な奴。」


「なにそれ。」



プッと吹き出す。



そして、ちらりと誓耶を見た。



誓耶は緊張して、身体を固くする。



偉槻が間に入って、彼の視線を遮った。



ほっと誓耶は息をつく。