胡蝶蘭




「ああん、偉槻?」



うん、と頷く。



厨房の中で忙しく働く店長は、それでも誓耶の言葉に考えてくれた。



「今日はこっち来てねぇ。
確か、久々に楽器弾くって言ってたぞ。」


「楽器?」


「ああ。」



よっ、と店長は大鍋を持ち上げる。



「隣の倉庫だ。
行ってみな。」


「わかった。
ありがとう。」



腰を折るようにぺこんと頭を下げると、店長はニヤッと笑って手を振った。



誓耶も振り返して裏口へ向かう。



小走りに外へ出、倉庫を探した。



「あ、あった。」



わずかに中が明るい。



誓耶は恐る恐る、中をのぞいた。



ビンビンと、地面が振動している。



間違いない、いる。



ぱあっと顔を輝かせ、誓耶は勢いよく中に走りこんだ。



演奏が止み、中にいた4人の男が誓耶を振り返る。



「誓耶…!」



偉槻が驚いて数歩、踏み出した。



「何やってんだこんなとこで。」


「なに、偉槻の知り合い?」



隣にいた男が、汗をぬぐって言った。



誓耶は固まってしまった。



馬鹿だな、音がいくつも聞こえていたんだから、偉槻以外にも人がいるのがわかってたのに。