胡蝶蘭








何故か、無性に偉槻に会いたくなった。



ベッドの上で、ケータイを触る。



電話、繋がるかな。



教えてもらった番号をメモリから呼び出す。



期待したが、虚しい呼び出し音が響くだけだった。



…店、行くかな。



時間は8時。



まだそんなに遅くない。



匡は風呂。



行くなら今だ。



誓耶は素早く上着を着ると、部屋を滑り出た。



なるべく音を立てないようにして階段を降り、スニーカーを履く。



玄関を注意深く開けると、一目散に駆け出した。



偉槻、店にいるといいな。



アパートへ行ってもいないであろうことは読めたので、足を店に向ける。



忙しいだろうか。



今日は金曜の夜。



行かないほうがいいだろうか。



…いいよな。



誓耶は唇を噛む。



いいだろ、偉槻?



「何の用だ?」と言われて追い返されそうな気がするが…。



ああ見えて優しいから、大丈夫だと信じる。