倉庫の一角に置かせてもらっていたドラムを組み立て、千博が指示を飛ばす。



「鍵、閉めたのか?
誰か入ってきたらやっかいだぞ。」


「へいへい。
行かせていただきますよ。」



健が下顎を突き出して歩き出す。



肩にかけたギターが揺れた。



「コード、引っかけんなよ。」


「へいへい。」



千博はなおも心配そうに健を目で追った。



戻ってくるまでそうしている千博は心配性と言うか、神経質と言うか…。



偉槻は小さくため息をついた。



戻ってきた健が、ギターのチューニングを始める。



「よし、何がいい?」


「って、さっきその話をして適当って言っただろ。」



千博が呆れて言う。



健はむくれて反論した。



「適当ったって、誰かが曲決めなきゃ始まんないだろ。」



確かに。



偉槻、何がいい?と訊かれ、偉槻は考えた。



…あれはどうだろう。



この間、誓耶にせがまれて歌ってやったあの曲。



みんながわいわいやっているところ、偉槻は一人で歌い始めた。



途端、3人は黙って偉槻を振り返る。



広い広い倉庫に、偉槻の歌声とギターの音だけが響く。