胡蝶蘭

「だって、偉槻って名前がインパクト強くって…。
あんただってあたしの苗字覚えてねぇだろ?」



覚えてるよ。



偉槻はしれっとした顔で即答した。



「比嘉。」


「…何で覚えてんの。」



うげぇ、と誓耶は悔しそうだ。



「お前が覚えてねぇのがおかしいんだよ。
だいたい、お互いのことあんまり知らないんだから数少ない情報くらい頭に叩き込めよ。」


「そんな情報とかいう捉え方してないもんね。
偉槻のひねくれた考え方が味方したんだよ今回は。」



俺はそんなにひねくれてない。



お前の頭が取りこぼしすぎなんだよ。



「それより、慎吾と仲良くしてやってくれよな。」


「あん?」


「お前に憧れまくってんだよ。
同じ高卒__って言っても、慎吾は中退だけど_で上手く仕事こなして、信頼も厚い。
何回もお前の話聞かされてんだ。」


「…嬉しくない。」



そんなに崇められるのは苦手だ。



今までそんな扱いを受けたことがない。



慎吾には悪いが少し引く。



「嬉しくないってなんだ。
あいつが人尊敬するなんてめっちゃくちゃレアなんだぞ!」


「それはどうも。」



どうせなら俺じゃなくて店長とか先輩を崇め奉れ。



俺なんかよりもよっぽどできた人間だ。