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「ったく、偉槻が変な告げ口するから、あたしもうちょっとで慎吾にとっ捕まるとこだったんだからな。」
「お前がまいた種だろ。」
偉槻は笑ってコーヒーを淹れた。
「ってか、お前なに押しかけてんだ。」
「いいじゃん、ここなら慎吾は恐れ多くて入ってこれねーもん。」
突然偉槻のアパートに押しかけてきた誓耶は、ちゃっかりとヒーター前を陣取っている。
「さっきまであいつと一緒だったのか?」
「ああ。
なんか校門前で待ち伏せされて、今日偉槻としゃべったって嬉しそうだった。」
「…男に好かれる趣味はねぇ。」
「言ってやれ。」
誓耶に負けじと彼女を押しのけて、一番いい場所に腰をおろす。
誓耶は不満そうだが弱肉強食の法則に従っておとなしく引き下がった。
「で?
今日来たのはそれが理由か?」
「悪い?」
「いや。
俺が仕事だったらどうしてたんだよ。」
「帰った。」
あっさりと。
まったく、こいつは…。
「驚いたよ、あんたが慎吾の憧れの大神だったなんて。」
「俺もだよ。
まさかお前の愛しの友達が新入りだったなんて。」
「世界は狭い。」
うんうん、と頷く誓耶が可笑しくて。
偉槻はコーヒーを飲むふりをして隠れて笑った。
「っていうか、俺、自己紹介のとき苗字言ったろ?」
「ああ、忘れてたんだよね。」
けろりとして誓耶は言う。
おいおい…。


