胡蝶蘭

偉槻が弦に触れると、心地よい音が鳴った。



アコースティックのギターの音色は優しく感じる。



部屋に、優しい音が響く。



そして、歌いだした偉槻の声は、殊更優しく聞こえた。



下手くそでもいい。



気取んなくていい。



カッコつけなくていい。



そう歌っている内容のどこかくすぐったい歌なのに、素直に響く。



それに何より、偉槻がうまい。



ギターもリズムがよくて上手いのだが、声がいい。



普段喋っている声とはまた違った響き。



低音が鼓膜を揺らす。



誓耶は壁に頭を預けた。



偉槻は少し斜めに床を眺めている。



最初は恥ずかしげだった顔も、今は口元に微笑みを浮かべている。



歌、好きなんだ。



前に誓耶が寝かせてもらった部屋には、楽器が置いてあった。



こんなアコースティックもあったし、エレキもあった。



…本当に音楽が好きなんだ。



それにしても上手い。



誓耶は子守唄のように偉槻の歌声を聴きながら、意識を手放した。