田中の引き止める声を背中に受け、偉槻はボックスを出た。



「もう、つれないんだからぁ。」


偉槻にはもう聞き飽きた台詞だ。


みんなを無視して外に出ると、中の喧騒は嘘のように静まり返っている。



時々通りの車が排気音を吐き出していくだけだ。



十月の夜は冷たく、偉槻は羽織ったジャケットに顔を埋めるようにして歩き出した。



金、払わなかったけど、まあいいか。



あいつに無理矢理連れて行かれたわけだし。



「あ。」



無意識にサングラスをかけなおそうとして手をやって気付いた。



サングラス、取られたまま置いてきてしまった。



あれ、気に入ってたのに。



舌打ちとため息が連続で出た。



これは偉槻が最高にイラつき疲れたときの組み合わせだ。



さっさとここから離れようと、偉槻は早足に歩き出した。



そのとき、ちょうどバイクが轟音を振りまいて通り去り、尻ポケットに無造作に突っ込んだ携帯が道に転がるのに気付かなかった。