胡蝶蘭

まぁ、とにかく。



帰らせてもらえるのはありがたいことだ。



偉槻は深く頭を下げて、誓耶のもとへと戻った。



自然に足が速まる。



誓耶のあの顔。



すがるような、あの顔。



早く戻ってやらなければと、無意識に身体が動いた。



そうした自分に気づき、苦笑する。



俺は、どうなってんだ。



今までの自分が、変わっていく。



女のために、何かをしてやろうなんて気は起きたことがなかったのに。



「誓耶。」



そう呼ぶと、彼女は勢いよく顔を上げる。



歪んだ顔。



相当だな、と偉槻は頭を掻く。



何があって、こんなことになってんだ?



また従兄だろう。



またキスでもされたか?



そう言われても驚かない自信がある。



あの狂った男は何をするかわからない。



一緒に暮らしてる誓耶に同情する。