胡蝶蘭

「話せるか?」



肩に手を置くと、誓耶は偉槻を見上げた。



ゆっくりと、頷く。



「…よし。」



話せ、と促すと、誓耶はここでは嫌だと言う。



「本当に申し訳ないけど、泊めてほしい。」


「…そういうことだろうと思ってたよ。
俺もう早目に上がらせてもらうから、待ってろ。」



立ち上がると、背後で誓耶が縮こまるのが見えた。



また身体が小刻みに震えている。



「誓耶。」



呼ぶと、情けない顔で偉槻を見上げた。



「すぐ戻ってくるから。」


「うん。」



懇願するような顔。



偉槻は早足に店長のもとへと向かった。



「おう、偉槻。
ほれ、タオル…。」


「すいません、あいつ連れて帰るんで、早退させてください。」



店長の言葉を遮って、早口に言う。



店長は当然のような顔をして、あっけらかんと言った。



「ああ、わかってるよ。
嬢ちゃんほっとけないだろ。」


「え、ええ、まぁ。
すんません。」



なんだかこっちが拍子抜けだ。