胡蝶蘭

「どうしたんだよ、こんな時間に。
それに、お前、自分の恰好わかってんのか?
いくら急ぎでも、それはないだろ。」



一方的に話し続ける偉槻とは対照に、誓耶は黙っている。



「おい、何があった?」



用もないのに、ここへは来ないだろう。



しかもこんな夜中に。



何があったんだ?



「また従兄か?
どうした?」



ガラじゃない。



ガラじゃないのに、優しくする自分がいる。



「偉槻。」



顔を上げると、店長が毛布を差し出していた。



この間、誓耶に貸していた毛布。



また出番が回ってきた。



「ありがとうございます。」



偉槻は代わりに受け取ってやり、身体を包んでやる。



その間も、誓耶は俯いていた。



「あと、タオルも持ってきてやるな。」



誓耶の濡れた髪に気付いた店長は、優しく言った。



偉槻がまた代わりに頭を下げる。



誓耶はまだ震えていた。



「寒いか?」



それは寒いだろうな。



馬鹿な質問だったと後悔する。