胡蝶蘭




どれくらい時間が経ったのかわからない。



匡は少しも休まず、誓耶を突いた。



しかしさすがに疲れたらしく、呼吸が乱れていた。



誓耶は一生懸命に少しずつ体制をずらす。



それを続け、隙が出来たところで一気に跳ね起きた。



「うあっ!」



匡が息を飲みこんだ。



誓耶も呻いて足に力を入れる。



そのまま階段を駆け下り、草履をつっかけた。



「誓耶ぁ!!」



匡がすごい剣幕で降りてきた。



誓耶はもつれる足を必死に動かし、駆け出した。



驚いた顔の叔父が、最後に目の端に見えた。



そんなことにかまってられないし、かまうつもりもない。



誓耶は今度はケータイすらも持たずに、偉槻の家を目指した。



後ろから足音はしない。



振り切れた?



でも、足は止めない。



誓耶はできるだけ顔を俯かせて、歩いた。



知り合いに会いませんようにと、必死で願った。



通り過ぎる人がみんな自分をみている気がして、身体が縮まる。



ぶかぶかのTシャツをワンピースのようにして着ているので、寒さが半端ない。



脚の感覚がもうほとんどなかった。



身体ががくがくと震える。



サンダルの足も、痛かった。



幸いガラの悪い連中と行き会うこともなく、偉槻のアパートが見えた。



今は夜の11時。



まだ起きているだろう。