結局断りきれず、偉槻はカラオケボックスの角席に座った。
夜中にこんな頭がガンガンするような部屋に押し込まれ、香水の臭いにむせ返り、しつこい女の相手をさせられる。
覚えとけ。
「ねぇ、偉槻クン、メアド交換しよぉよ。」
「あ、あたしも~。
やっと噂の偉槻クンに会えたんだしぃ。」
両側から女に挟まれ、偉槻は目をつぶった。
その間に勝手に携帯をジーパンのポケットから出される。
「わぁ、女の名前がない~。
女嫌いってホントだったんだ~。」
ムッとしながら携帯を取り返す。
何を勝手に…。
なんで俺はこんなとしてんだ。
「ねぇ、起きてんの?」
かけていたサングラスをとられ、表情をさらされる。
「キャッ、噂どおりのイケメンじゃん!」
「ホント~!
カッコいい~。」
…俺はどんな噂を流されてんだ。
「眉毛に線入ってる~。
オシャレ~。」
「目もクールでカッコいい~。」
好き勝手に顔を触られ、さすがにキレた。
すっくと立ち上がる。
「田中、帰るわ。」
「えっ、ちょっ、偉槻?」
女の子と一緒に歌っていた田中は焦って手を伸ばす。
勿論届くわけがない。


