閉店まであと一時間程という時間に、女が来た。
胸元の空いた服、短いスカート、濃い化粧。
つけまつげの下から目が偉槻を見ていた。
内心呻いて、奥へ下がる。
そしてそのまま店長を呼んだ。
「店長。」
「あ?」
ちょっと、と手招くと、さっきのことを思い出してか、警戒した様子でやってくる。
「すいません、こないだちょっとやらかいしまして…。」
事情を全部話した。
話すにつれ、店長は苦笑いを顔に張り付ける。
「お前、馬鹿なことしたなぁ。
さっさと俺呼んでりゃ、今頃キレイサッパリだったのによぉ。」
「はぁ…。」
「ったく、世話の焼ける。
今度なんかすり寄られたら俺んとこ来い。
いいな?」
「はい。」
礼を言って戻ろうとしたとき、ハッと彼女のことを思い出す。
「店長!」
慌てて店長を呼び戻し、物陰に引っ張り込む。
辺りに人、間違っても田中がいないかを確認して、声を抑えて付け足した。
「俺、あいつと付き合うって言いましたよね?」
「嬢ちゃんだろ?」
「はい。
あいつと付き合ってること、あの女には内緒にしといてもらえますか?
あとあとあいつに面倒がいくと思うんで。」
これ以上、事態をややこしくしたくはない。
「俺に付き合ってる奴がいるってことは言ってもらえるとありがたいんですけど、名指しはちょっと…。」
「おお、わかった。
みんなにも言っとく。」
「世話かけてすんません。」


