でも、下手に触れないほうがいいのは明白だったので、誓耶は何も言わないことにした。



「そう。
また気が向いたら教えろ。」


「一生向かねーよ。」



そろそろ、お暇しよう。



ここに来た目的は達成された。



もう、用はない。



「偉槻、あたしもう帰る。」


「そうか。
俺のアパートの道はもう覚えたな?」


「ああ。」


「じゃあ、何か用があったら来い。」


「わかった。
また、一度匡に会ってほしいから、来て。」



俺を呼ぶのかと、偉槻は呆れ顔だ。



「じゃあ、今日はありがと。
ホントに助かった。」



玄関で靴を履きながら、頭を下げる。



本当に、断られたらどうしようもなかった。



偉槻には悪いが、女に感謝だ。



「またよろしく。」


「はいはい。
何かあったら、店でもいいから来い。」


「うん。
じゃ。」



手短に別れを済ませ、階段を降りる。



カンカンと、寒空に鉄骨の音が響いた。



階段を降りて見上げると、偉槻はまだ顔を出していた。



小さく手を上げると、向こうも上げる。



最後にさよならを言って、誓耶は振り返らずに歩き出した。