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生まれた時から
父親というものはいない。


記憶の片隅にも
普段の生活でも
少ない写真の中にも

そのかすかな陰さえ
私の周りには存在しなくて
“私に父親はいないんだ”って
幼な心にいつの間にか悟ってた。


あえて母親に聞こうとも思わなくて
もしかしたら凄く小さい頃に
聞いてたかもしれないけど
記憶としては何も残ってなかった。


だから父親は元からいないもの、
これが普通な事だと思いこんで
余り深くは考えないようにした。


――それでも世間一般の常識では
普通ではないらしく

私の母はそれなりの家系の人間で
世間体を気にした為
母の家の人は私の存在を隠そうとした。


母は黒髪に黒い瞳
私は金髪に灰色の瞳。

明らかに異国の血が入った私の姿を
彼らは蔑み気味悪がった。


どこの馬の骨ともわからない
ゆきずりの相手と
恥知らず
一族の名に泥をぬって!

勝手に私を産み
父親の名前すら誰にも言わない母。

暴言を浴び、
なじられながらも何も言わず
じっと耐える彼女の姿を
幼い頃何度も見て

そんな思いをするなら
産まなければよかったのに。

――私は望まれて生まれてきた
子供じゃないのだと。