「アキ、何やってんだ?
お前らこんな人込みで
二人の世界作んなよ?」

「は?」


明らかに訝しげな声をあげた
ハルトの視線の先には

スタジオの前に止めた車に
寄り掛かるように腕を組んで立ち
片眉をしかめるユウの姿。


何でここにいるの?

何時に終わるかなんて
教えてないはずなのに。

迎えに来るなら
そう言っておいてよ。


彼の姿を見たとたん
何故か力がフッと抜けて
膝が崩れ身体が下に沈んだ。


それと同時に暗闇に覆われていく視界。


「アキ!」

「オイ!
どうした!?」

「アキ!大丈夫か?
しっかりしろ!
――何かコイツ具合が悪いみたいで。」

「テメエそういうことは早く言え!
かせっ!!」


そう頭の片隅で
ユウの怒鳴り声が聞こえたかと思ったら

それまで支えてくれてた
誰かの腕を離れた感覚の後
身体が宙に浮いた。


ふわふわと空中を揺れながら
鼻先に感じる
煙草とジンジャー系の香水の匂い。


「いきなり現れて
あんたアキの何なんだよ?」

「テメエに話す義理はねーよ。
アキは俺が連れてくから」

「あれ?ちょっと待てよ
……お前まさか。
何でお前がアキと」

「あ?
下手な詮索してんじゃねーよ。

ガキはせいぜい
好きな女が他の男にかっさらわれんの
指くわえて見てればいーんだよ。
じゃーな中学生君」

「ちょ……待っ!!」


その声が途切れるように
バタンッとかなり大きな音がして
すぐ後に耳に響くエンジン音と
身体に伝わる小刻みな振動。


その揺れに身を任せるようにして
暗闇が段々と深まっていき
――そこで私は意識を失った。