部屋に入る前
廊下ですれ違った母の妹の都さん。

私の姿を見るとにっこり笑って
「あらアキさん、帰ったの?
サクラさんとは楽しんだ?」

この数日間の私の居場所
全く疑いを持ってないような彼女の様子に
ホッと安堵の気持ち広がりながらも

きっとこの家の人たちは
私がどうなっても
何とも思わないんだろうなとか
卑屈な考え広がっていく。


別に私がいなくなったところで
重たい荷物が一つなくなったって
清々するにきまってる。


……なんだかこんな風に思うのは
構われたくて駄々をこねてる
小さな子供みたいで
バカみたいって凄く嫌になった。


私以外の空気の動く気配
ぬくもり、匂い
あたりまえだけど何もなくて
寂しさで心の中覆われていく。


ケイの事、ユウキの事
知らなかったことを知って
自分では強くなったと思ってたのに
まだまだ全然、
ちょっとしたことで揺らいで
泣きたい気持ちになってる。


誰かと共に過ごす温かみと心地よさを
一回知ってしまったら
その記憶からなかなか抜け出せなくなって

前よりも自分がもっと弱くなったような
そんな気持ちになった。


それから寝返りをごろんとうって
天井を見上げるような体制で瞼を開けた。


色々なことちゃんと
考えなきゃいけないから。


ユウキが好き
この気持ちに嘘はない。

それに彼の言葉の通り
彼はきっとビックになる。
深く考えなくても当たり前に予測できる。

私ひとり養うぐらい
経済的にはきっとなんてことない。


……でもそんなに単純じゃない。


彼の立場とか私の置かれたこの状況
そんな簡単に物事は回らない。

いろんな責任が圧し掛かってる。


それにやっぱり私は歌いたい
音楽を止められない。


彼の側でもそれは出来る。
でも――


どうしたい?
どうするべき?


自分自身に問いかける。


左手首のブレス
目の前に持ち上げてじっと見つめる。


ケイ、私はどうするべきかな?