そう言って彼は寝室から出ていくと
冷凍庫からアイスノン持ってきて
タオルにくるんで目元にあててくれた。


「大丈夫か?」

「別に平気。冷たくて気持ちいいし。
でもそんなに腫れてる?
目も当てられないくらい酷い顔?」


その言葉にユウキはフッと軽く笑うと


「ちげーよ、そっちの大丈夫かじゃない。
今日出れるか?って意味。
ステージの上で演奏できるか?

もしあれなら腕のいい奴知ってるし
お前のバンドに助っ人でギター
入ってもらえるように頼めるけど」

「いらない」


間髪入れないで返事が出た。
それも少し強めの、喧嘩売る感じの声。


なんだか凄く悔しかった。
あんなことがあって
平常心では弾けないかもって
思われてる自分が。


確かにケイが死んだこと、
自分の中では全然消化しきれてないし
今だって何かのタイミングで
泣き出しそうになる自分がいるけど

でも別に腕が切れたわけでも
今ここでそう思うのは
間違ってるかもしれないけど
ケイみたいにお腹刺された訳でもない。


少しだけ目が腫れてて
寝不足なだけ。

……そう思いたかった。


ケイが最後まで逃げなかったステージの上
私だって逃げるわけにはいかない。

少し意地みたいに思ってるけど
これだけは絶対に譲れない。


でもユウキはまだ心配そうな顔で


「わかってんのか?
今日は客も入るし音楽業界の連中だって
山ほど来るんだぞ」

「わかってる
大丈夫だから」


別に私をバカにしてる訳じゃなくて
凄く心配してくれてる彼の瞳
真っすぐに見ながら
口元を少し持ち上げる。


するとユウキは
少し驚いたように目を見開いた後
いつもみたいに憎たらしい顔で
ニヤリと笑う。


「ふーん、なら別にいーけど。
楽しみにしてるよお前の演奏」


今度は逆に
プレッシャーかけようとするし。

でも甘やかされるより
そっちの方がずっといい。


――身体の芯が燻ってるみたいに熱い。

何がって聞かれても上手く言えないけど
昨日までの自分とどこか違う
――そう、思った。