職場は駅のすぐ近く。
「おはようございます。」
「ああ、おはよう。」
割と出社は早いほうだが、いつも僕は2番目か3番目。
必ず課長が先にいる。
「お茶煎れますけど、飲まれますか?」
「ああ、ありがとう。」
僕は自分のものと課長のお茶を煎れ、課長の机に置いた。
とても穏やかな人で、僕は怒っているのを見たことがない。

「そうだ。」
課長がつぶやいた。
「今日の午後なんだけど、取引先に持っていって欲しい物があるんだ。」
「はい、わかりました。」
「先方が4時頃を希望されているので、今日はそのまま帰っていいから。」
「ありがとうございます。場所はどちらでしょう?」
「新宿だよ。去年私と一緒に行ったところだ。」
「新宿・・・。」
「よろしく頼むよ。」
「あ、はい。承知しました。」

彼女の勤務先が確か新宿だった。
今日でなければ思い出さなかったかもしれないが。
僕は無意識に、携帯のアドレスから彼女の名前を探していた。