ぎゅっとあいつがあたしの肩と抱きしめる

「産んでくれる?」

「ん…産む」

すんなりと「産む」という言葉が出た

なにをどう頑張ってくれるのかは知らないが
その言葉が無性に心地よくて

ああ、やっぱり
あたしは産みたかったんだって気付いた

堕胎手術をしてくれる病院は
ネットでとうに見つけていたのに

なかなか踏み切れなかったのは
たぶん
あたしもあいつとの子を産みたいって思ってたから

産めるなら産みたい

でも迷惑はかけたくない

その狭間でずっと葛藤していた

「トイレの前で渡すもんじゃないとは思うんだけど」

あいつが苦笑しながら
ダイアの指輪をあたしの薬指にはめてくれた

「ちょ…これ…」

なんで指のサイズまで知ってんだよ

…てか、いつ用意したんだよ

「僕と結婚して欲しい」

「な…ちょ、それは…」

「その指輪、返品不可だから」

「それってプロポーズの返事も聞かないってことか?」

「まあ、そういうことかなあ?
僕の子を産むのに、夫婦にならないなんて有り得ないし」

「は?」

「だから、それは返品不可
ねっ、道理にあってる」

にこっと微笑むあいつの笑みが
小悪魔に見えたのはたぶんあたしだけじゃないはずだ