『果恋ちゃんのために
今日はビーフシチューを朝から煮込んだんだ』

あたしは制服を着たまま
肩にかけている鞄をどさっと
居間の床に落とした

「は?」と思わず口に出る

二歩ほど前に出て
じっくりと皿の上に盛られているビーフシチューを見れば

なるほど
朝から煮込んだ甲斐のある仕上がりだ

いやいやいや
それは横に置いておいて

「な…なにをやってんだっ!」

あたしは大きな声で
あいつにむかって怒鳴った

あいつは意外にも似合うフリルのついたエプロンで
キッチンに立ってフライ返しを振りまわしている

「お祝いをしようと思って」

「は? だから何で?」

「んー、レストランを予約しようと思ってたんだけど
喫煙者が近くいたら嫌だから
それならいっそ周りを気にしなくて良い果恋ちゃんの家でって思って」

「おかげで、俺はすっかり寝不足だ」

ソファに横になっていた兄貴が
不機嫌そうに身体を起こして呟いた