美羽を抱き上げる光彦に彼女の侍女であるマツがすぐさま近寄ってきた
「光彦様、行けませぬ。私が代わりに姫をお運びいたします!」
「よい。俺が運ぶ。お前は水を部屋へと持ってきてくれ」
マツが何か言いたげな表情をしたが当主の息子である光彦に反論など出来るはずがない。仕方なく彼女は光彦から離れていった
彼は漸く彼女を自身の部屋へと連れてくると、側近が用意したのだろうに部屋には布団が敷かれていた
そこに美羽を寝かせれば起きる気配のない彼女の頬を数回叩いた
「・・・・・・ん」
目を覚ました彼女の瞳の色は舞歌の真朱色が抜け朱へと変わっていた。徐々に徐々に浬張へと変わるその色に彼の感情を強く浸透する
「起きたか。水を飲め」
水を差し出した光彦に美羽は無言で受け取った
動く喉元に光彦は確認する
「覚えているか」
びくりと肩を振るわした美羽に彼は何処から話そうか考えた
だが僅かに口を開いたそれは、
「・・・私は、あのような舞を知りません」
光彦も固定したように頷いた。だが、
「我々の祭りは年に一度神降ろしをして舞う行事があった」
″あった″とは過去にそうだった
だがある年からそれが出来なくなったのだ
それは他ならぬ舞歌がそれを拒絶したからだった
光彦も彼女の舞を知らなかった。だが昔の・・・行事が行われたのを知っている者は口々に言うのだ
このような舞は見たことない
真似など出来るものではない
ああ、なんて美しいのだ、と
それを舞歌が先程あの場で舞ったのだ。狂ったように、求めるように
「あんたはもう、逃げることができない」
目を見開き漸く光彦を見つめた美羽の眼には自身しか映さない
彼女は窶れていたがその姿さえも艶がある
施された化粧は普段の色気に掛け合わせるように目の前の男を容赦なしに誘惑する
彼女は誰が見ても美しかった
それは少女から、女へと。付けられた枷を外されるのと同時進行だ
美羽の薄茶の赤みがかかった髪が彼女の表情を隠すようにさらりと落ちる
光彦は美羽の顔を見ようと手を伸ばし髪を流した
視界が交わると同時に
「 」
美羽を腕の中へと入れていた

