混乱している圭吾を余所に楠木は続ける
「音が必要だのう。どれ、柏木よ一曲何か吹け」
反射的に表情を隠せばいつもの顔へ戻す
では、一曲
懐に仕舞われていた横笛を出せばそれを口元へ持っていく・・・
それにつられて美羽も立ち上がり、扇子を顔の横へ持っていく
中央へと寄れば皆が見つめる中、音につられて美しく舞うのだった
扇子を動かし着物を翻すように回ればたなびく髪と金の簪が美しく魅了する
目元に施された紅の化粧は艶やかさを引き立て瞬きするたびに色気がどよめく
圭吾の横笛の音色に続くように手太鼓と尺八の音が合わさった
いつの間に移動したのか襖の正面に手太鼓と尺八を演奏する者がいた
二つの音により曲は一変して急に激しくなる。圭吾は驚いたが始まってしまった手前、二つの音に付いていくしかなかった
美羽の舞は一変した
曲につられるように激しくなるそれに、光彦と美羽は目が合った
彼女の瞳は朱に染まり自身となんら変わらず濃い色だった
光彦は漸く彼女の異変に気付いたのだ
あれは美羽自身の舞ではない
あの様な心情を激しく表された舞をするのは一人しかいなかった
我が国の姫が舞うことを許されるそれ、つまり舞歌の舞だ
彼女が美羽に乗り移っている
光彦はすぐさま己の父である男へと見た
だがその顔を見て声が出なかった
父・・・あの厳しい父の目から涙を零したのだった
その姿に身体全身がぞくりとし、言葉が出なかった

