光彦の表情は朱い髪により見えなかったがどこか先程とは違う様子に美羽は僅かに戸惑った
「あの、もうよろしいのですか」
小さくだがああ、と返事が聞こえれるのだが光彦は美羽の腕を一向に離す気配がない
掴まれた腕からどこか嫌な予感がした美羽はそれとなく離れようとするがやはり変化はない
「出るぞ」
何を思ったのか光彦は美羽の腕を強く引きながら部屋を出ようとするのだった
「ま、待ってください」
美羽の言葉に立ち止まった光彦だが美羽からは彼の背中しか見えず、表情は見えない
「貴方は、何を見られたのですか?」
光彦は肩でゆっくりと呼吸をすれば、それは予想もしないことだった
「桜花だ」
桜花・・・
美羽の記憶の中で今もなお強く残っているのは、国を出る際に一面に咲き誇る美しい桜花だった
だがその桜花は紛れもない兄秋影の最期でもあった
美羽は彼が何故最期の力を振り絞ってまで桜花を見せたのか分からなかった。だが花びらが触れる前に消えてしまった桜花は、悲しくも兄の死を知らせているものだった
美羽は兄の死の最期、何も出来なかった自身が悔しかった。兄だけでなく父もそうだった
瞼を伏せ唇を悔しそうに噛めば、光彦の次の言葉を待った
「あれは、お前の兄だったのか」

