目の前には赤いものが広がる
それは何度見ても変わらぬ色鮮やかな朱だった
ーーー「・・・あかは好きよ」
弱々しく発せられた声がいつまでも己の記憶へと色濃く残っていた
徐に筆を止まらせれば、一度深く目を閉じる。そして再び筆を走らせるのだった
「光彦様、そろそろお時間だと」
同じ部屋内にいる側近にあたる男に話し掛けられれば、光彦は筆を置いたのだった
「後は頼むぞ。それと遠野が午後に来るだろう。そしたら待機させといてくれ」
「承知しました」
側近は頭を下げるのを視界に入れれば光彦は部屋を後にするのだった
廊下を歩いていけば目的地に近づくにつれ少しづつ人の数が減っていく。それもそのはずだ。この先にいるのは・・・
事前に伝え人が完全に出払った状態の廊下に、光彦は漸く目的地の部屋の前へと着いたのだった
「失礼する」
一言断りを入れれば、障子を開くのだった
そこには昨夜ぶりの美羽の姿があった。今日は昨日とは違う小袖の色合いを着て髪は横に結っている
美羽は光彦が来る間、書物を読んでいたようで机に置かれていた
「こんにちは・・・」
目線を合わせずに挨拶をした美羽に、やはり昨日の事を気にしているのだと内心思いながらも何事もなかったように「行くぞ」と言った
今は人を出払った状態だが気を抜くことなく歩く速度を早めた。後ろにいる美羽は、光彦の後を離れまいと必死に追いかけている
そのような状態で歩くこと数分。光彦は急に止まれば何もない部屋へと入っていったのだった。美羽もそれに続き部屋に入るのだが、そこには何もない殺風景な部屋だった
だが光彦はその部屋を通り抜ければ向かいにある襖を開ける。だがそこも同じで何もない部屋だった。暫く光彦は開ける場所は違うけどもそれを何回か繰り返したのだった
勿論光彦の後ろに着いていく美羽だったが次々と代わる同じ造りの部屋を渡るのだがそれはまるで何ヵ所の部屋を行き来しているような錯覚に陥ってしまいそうなほどの数だった
光彦が歩みを止めれば、どうやら此処が最後の部屋なのだと理解した
何故ならその部屋は明らかに他とは違う物があった
そう、鍵の掛かった扉だ

