部屋全体に広がる鉄の臭いが鼻を刺激する。だが光彦は微動だにせずに三人の死体を確認していく
光彦には三人の顔を覚えていた。かつて父、重綱率いる浬張軍の中でも少しだが名を上げた武将達ばかりだ。それが今では息子に世代交代をし隠居した者達だった。その息子はもうこの世に居ないがな
「堕ちたか・・・」
廊下から足音が聞こえ、部屋の前に止まった
「光彦様、いかがなさ・・・。この方々は確か」
駆けつけた三人のうち状態をいち早く気付いた男は騎馬隊の薙刀を使うのが上手いと言われた遠野だった。どうやらこの男も三人に見覚えがあるようだ
確か此度の戦で良い結果を出し父上から功績を称えられてたな
他の二人もそうだ。優秀な功績を残してきた者達だ
「丁寧に弔え。この件は俺が持つ」
我が一族が国の者を討つ場合、仇討ちされる事は無いのだが供養するのであった。それはどんな大罪を侵した者でも正式な供養をする事が決まりごとだった
それが国を納める者達が示す国の民への、死者への誠意であるからだ
例外はあるがな・・・
俺の指示を受けた三人は手早く作業に取り掛かった
一人は僧侶を呼びに部屋を出ていき残り二人は遺体を様態を確認すれば速やかに別室に待機していた己の重臣達に声をかけ遺体を移動させていた
そこに遠野が俺の前へと来れば
「光彦様、御召し物が汚れておりますぞ。後は我々がします故に自室にお戻り下され」
光彦は漸く己の衣類に着いた汚れに気付くがそれと同時にある事を気付けば部屋を出ずにこの部屋に置いてある箪笥へと向かった
箪笥の中の物を適当に取れば俺は部屋を出て自室へと向かった

