美羽の目の前には三、四人の人がいた。それらの者には手に刃物を握り、ゆっくり美羽へと近付くのだった
それに対して美羽は反対側へと押し出されるように後退りした
「貴方達は一体何者なの。私をどうするつもりですか」
先程まで雲により隠れた月が顔を出し、月の光により隠れていた者達の顔が映し出された
「何故、城下の民が・・・?」
そこには武装もしてない、武士なのだろうか、だがその姿は何処か違うようにも見えた。しかし美羽には身に覚えのない者達であった
ただしかし、一つだけ引っ掛かったのが皆同じ様に異様に強い赤・・・否、薄黒く鈍よりとした朱色の瞳が美羽へと鋭く注がれていた
そして先頭にいた五十代半ばだと思われる男が美羽へと急接近してこようと走りだした
「・・・い。・・憎い。お前が憎い!!」
走りながら手元に持った包丁を美羽の胸元目掛けて向けられる
美羽は咄嗟に下にあった枕を手に取り、己目掛けて来る包丁に向かって枕でそれを受け止めた。動きを防がれ、一瞬相手は怯みその隙を狙い相手の脇腹へと蹴りを入れたのであった
相手は数歩下がり、蹴られた拍子に包丁から手を離し、包丁は枕へと突き刺さったままであった。美羽は直ぐ様包丁を枕から引き抜くとそれを手に持ち敵へと身構えるのだった
可笑しいわ・・・。この者達は楠木の仕向けた敵ではないのかしら。でもそれにしては軽装であるし武器も一般で使われる物ばかり。それに対して私を憎いと言った
それに何故私が此処(浬張)に居ると分かったの?
疑問ばかり浮かぶ美羽に対し男の後ろにいた者達が一斉に遅いかかってきたのであった
急な展開に怯み、前方から振り上げられた刀を包丁で弾き返すも、横に向けられた出刃包丁に一瞬間に合わせなかった
出刃包丁が美羽の左腕をかすめ、斬り付けられた場所からじんわりと血が滲んでいく
四対一の不利な状況に対し、武器も刃先が短い包丁だ。このままではいつ殺られても可笑しくない
先程一番に襲い掛かってきた相手が今度は短刀を持ち美羽へと振りかかる。美羽は突きへの体勢になり相手の刀が辿り着く前に利き腕へと斬りかかった
案の定男は短刀を落とし利き腕からは血が垂れるのであった
「もらった」
刹那、男は利き腕に突き刺さした包丁を握った美羽の右手を反対の左手で掴み壁に向かって美羽へと投げつけた
美羽は背中を壁に強く打ち付け、咳き込んだ。そこで直ぐ様反応しなければならなかった
美羽は投げつけられた男に首を力強く捕まれてしまった
「か・・・・はっ・・」
「憎い・・・憎い・・・終わり、だ」
指の力が強くなり、息が苦しくなり、意識が朦朧としてきた
助け、て・・・・

