突然現れた男が去り、そこに残ったものは
殺気、恐怖、驚愕
私は先程起きた状況を思い出した
男に後ろから首を絞められ、私は必死になって手をほどこうと爪を立てて抵抗していた
その証拠に爪には血が付着している
なのに・・・・
あの朱の瞳が合わさった瞬間に私は反射的に手をほどいてしまった
私の意思に反して
怒りに心臓がドクリと脈打てば、それを反発するように身体中から冷静さを取り戻すように冷めていった
またあの時と同じだ。また・・・
美羽は何かを振り切るように風呂から上がれば、それをまつは慌てた様子で美羽の身体を布巾でぬぐい出した
美羽は直ぐ様腰元に褌を巻き小袖を羽織ればそのまままつへと振り向いた
「貴女が入れたのよね」
狼狽えるまつを他所に美羽は己で帯を締め上げる
「立場を考えれば私は何も言いません。それと、髪は結わないわ。何か首を隠す物はないかしら?」
まつは慌てたように探してくるといい残こし風呂場を出ていけば、美羽は深い溜め息を吐いた
鏡へと視線を移せばそこにはくっきりと赤い痕が残っている。それを隠すように軽く結い上げた髪を下ろした
「立場を考え・・・か」
逃げようなんて考えない。逃げようならばあの恐ろしい男が私を逃がさないはずだ
立場を考えろとまつに言った言葉は己自身に対する意味でもあり、八つ当たりでもあった。最低、ね。彼女はこの城の侍女であり、私は・・・
その思考を断ち切るようにまつが急いだ様子で風呂場へと戻ってきた

