玄司は美羽の願いに思わず目を見開いてしまった
「な、なんと・・・」
「私も、薄々気付いていました。ただ今はまだ確信が持てないのです。だから玄司様に頼みたいのです」
美羽の頼みに玄司は暫く黙っていたが
「うぬ、分かった。貴女の願いを聞き入れよう」
美羽はありがとうございますと礼をすれば、二人は自然と目が合うのであった
玄司の視界に入っている若い娘はこの短い間でどれほど辛い経験をしてきたのか、それは彼女の身体に痛々しく現れていた
「(これも何かの縁なのかもしれぬ。聞くのなら今しかないの)」
玄司は心の蟠りを解くべく、美羽に質問した
「あれは・・・一月前の満月だったか。不思議な事が起こったのだ」
「不思議とは?」
「うぬ、その頃小生はいつもどうり薬を煎じていたのだが不意に歌が聞こえたのだよ」
貴女も小生と同じ当主としての器の持ち主ならば、何か感じたのではないか?
玄司の言葉を理解するや否や美羽はこの男の正体が登馬家の血縁者だけとしか聞いていないがまさか・・・黄州の次期当主になるだろう者だとは考えもしなかった
しかしそれと同時に 歌 と聞き、美羽には一つ思い当たる事があった
それと同時に枇杷の国でのあの光景を思い出したのであった
「(まさか・・・あの歌が他の国にも影響してたなんて)歌とはどのようなですか?」
「まるで・・・宴のようだった。しかしあれはほんの一部始終だった。小生は突然の事態に追い付けず今も不思議でならないのだ。また、神が口にした言葉は”止まった時間が・・・流れ始めた”と」
貴女なら、何か知っているのではないのか?
思わぬ発言に美羽はどぎまぎした
それはまるで私が何かしたのだと確信し、責められているようだったからだ

