「申し遅れた。小生の名は登馬 玄司 晋太郎(とば げんじ しんたろう)だ。名を聞いて何か思いあたるだろう」
登馬と名乗った男に美羽は以前蔵の書物を見たときに医療関係について書かれた本は全て登馬の苗字が書いてあったのだ。つまりこの方は
「黄州を治める登馬家の血縁者の方・・・ですね」
「気付いたようだな、その通りだ。浬張の囚われし姫よ」
玄司の言葉に美羽は肩を震わせた
貴方様は一体何処まで」
知っているのですか?
しかし美羽の言葉を遮るように玄司は続けた
「実は私は彼と少しばかり面識があり、貴女を頼まれたのだ。だから、申し訳ないが貴女を彼から逃がす事に手伝えない」
美羽は玄司から目線を外し、ここ数日で出来た傷だらけの指先へと移っていた。その指先は小刻みに震えていた。ここ数日で彼の恐ろしさを身に染みていたからであった
「私は・・・・浬張に対して何も知りません。あまりにも、知識が足りないのです」
顔の表情は髪の毛で隠され玄司からは全く見えないのだが、押し殺した声音に玄司は深く息をついた
「うぬ、知らぬなら聞けばいい」
「だが、それが望んでいた答えになるとは限らぬが。それを承知の上で望むなら」
玄司は美羽の枕元にあった丸薬と水を持ち美羽へと差し出した
「何か小生に聞きたいのだろ。だがそれはまずは体力を回復してからにしよう。これは小生が練り合わせた丸薬だ。ちとあれだが直ぐに良くなるから飲まれよ」
「ふふ、そうですね」
玄司と会いその時初めて心から笑った美羽は受け取った丸薬を水で流し込んだ
先程から一転し渋い表情をした美羽は苦笑いを浮かべた
「ふふふ、苦いです」

