森を駆け抜け、美羽を担ぐ最中滝沢は小さな小屋を見つけた


「・・・此は、ついてるな」


滝沢はあれから三時間は険しい山の中を美羽を担ぎながら移動してをり、多少の休息と共に美羽の様子も看る為小屋へと立ち寄ったのであった




どうやら中には人の気配もあるらしく、滝沢は戸を叩いた


「どちらだ」

「連れの者が重体なんだ。黄州に寄りたいのだが、すまないが少しだけ此処で休ませてもらえないだろうか」


戸越しの会話に、向こうの男は閉じられた戸を開いたのであった



「うぬ、ちょうど良かったな。黄州に行かずとも、小生が連れの者の容態を診よう。・・・お前は、浬張の・・・」


戸を開けたのは、短く刈り上げられた黒髪に何処までも深い黒の瞳の若い男だった



「まさかこんな所で会うとはな・・・うぬ」



滝沢も僅かに驚いた様子だが、男の方は滝沢に困惑したが後ろに背負われている美羽を見た瞬間「早く中にはいりな」と滝沢達を小屋の中に入れたのだった










美羽を布団の中に眠らせ、脈などを計りながら診ていく男に滝沢は関心の無いように眺めていた

男は溜め息を付きながら滝沢へと振り向けば神妙な顔つきになって口を開いた



「うぬ、睡眠不足、栄養不足と極度のストレスだな。あと、打撲傷などもある。」

「ストレスとはなんだ?聞いたことない言葉だ」

「うぬ、それは失敬。ストレスとは小生の国では物理的・精神的な刺激によって引き起こされる生体機能のひずみ。また,それに対する生体の防衛反応のことだ」


その言葉を聞いてもあまり反応を示さない滝沢の様子に男は再度深い溜め息を付きながら美羽の方へと顔を向けた


「小生は医師だ。他国の事情には口を出さないつもりだが、此はどうだか。それに若い娘を此のようにまで追いつめるとは如何に・・・」


男の問いに、滝沢は「今は言えぬ」と、それ以降は口を閉ざしたままであるため男は仕方なしに美羽の腕の手当てを始めた