まだ一月は経っていないだろう





昼になった半ば、此処は千紫から遠く又浬張からもまだ大分距離がある所であった



江井の国から国と国を二つ三つ過ぎ去り、かなりの距離を歩いていた


荷物は軽い物を持ち歩いている美羽だが、今は文月の大暑に差し掛かる前なのだが生憎にも天気は晴天で日差しが暑い






また捕虜の身である美羽には着物が今のを着て二着しか持っていないのだ。そしてそれは衣替えのタイミングを逃してしまったことにより身体の体温が異様に上昇し熱を逃がせずにいた






熱と共に疲労と重度のストレスに美羽は限界にきていた




「(この縄を切れさえすれば・・・)」

己の手首を見つめれば、そこは元の白い肌が消え失せ青黒く変色しているほどであった

まさにそれは此れまでの抵抗の証だと物語るんだった



手首だけではなく、身体の線も細くなり、顔は窶れていた。この代わり映えに朝波達が見れば気を失う程なはずだ。だが、そんな姿でも彼女の美しさは掻き消されなかったのだった





美羽は目の前を歩く男の姿を恨めしそうに眺めた








「(私に力があれば・・・!)」


今の美羽には到底この男には敵わない・・・。それは今に始まった事ではないが、その辛さを受け入れるのは心痛であった




そんな事を思いながら額から汗が流れ落ち、地面へと付着するのを何となく眺めていた美羽はそのまま崩れ落ちたのであった








後ろから崩れ落ちた音がして滝沢は思わず舌打ちをする


「ったく軟弱だ」


弱音を吐かない困った堕ちた姫を、滝沢は美羽を担ぎ額に手をあてて見れば熱い事に気付き、不意に周囲を見渡した。生憎にも此処は森の中


「・・・あの国に行くか」






浬張から行くには遠回りになるが、美羽を無事に連れて行くのが命令であるため滝沢は仕方なく歩く方角を変えて森の中を駆け出していったのであった