何故この者も姫を覚えているかといえば、この者は姫の専属医師であったと共に彼の強い要望によって記憶を消されなかったのであった





「結局、姫が言ってた事が現実に起きているとは、考えもしなかったよ」


首を横に振る朝波に老人は困った様に苦笑いをする




「当分はあの者に情報は入らないでしょう。何より神があの者達を受け入れてないからです」


「先程の話に戻ってしまうが、異常現象により何ら被害はないのかい?」


「作物に何ら被害もないですし気候も今まで通り安定しています。特に目立った形跡はないですよ」




そうか・・・顎に手をあて暫く考え込んだ朝波に対し老人は立ち上がり水桶を手に持てば墓石の方へと歩いていく




老人は再度合掌し懐から布巾を取りだしそれを水に付ければ墓石を優しく撫でる様に、丁寧に拭っていく




一般では水を上にかける等があるが、彼はその様な事にはせず、丁寧である。これは彼の敬いからの行動である















「そお言えばお菊様のあの時の言葉は・・・全てを悟った言葉の様でしたね」


「何・・・・?」
























老人の言葉に朝波は耳を疑った


「・・・・・此は、もしや千紫との何らかの繋がりがあるんじゃないかな」


朝波は踵を返し国を見渡せる美しい光景から背を向ける。そして歩みを始めた



「医師殿、情報提供に御協力頂けて感謝します。俺は気になる事があるんだ。今からそちらに向かうつもりなんだ」




「そうですか・・・。して、そちらとは?」










「浬張です」