−−−この国に興味がないのだ



鋭く刺を持った言葉をいい放つ男の姿に朝波は臆さなかった






話が矛盾している。この国に興味がないのなら、何故監視をするのか

その者は一体何が目的なのか、と



地形、経済、国会情報、歴史?・・・いいや、そんなことではないだろう。仮にも此の国の当主に中る者ならこの程度の情報等の為に必用に嗅ぎ回るとは有り得ない。ならば一体・・・


もしかしたらこの者は見当が付いてるのかもしれないと、僅かな期待を込め口を開いた



「医師殿は、その者が一体何を嗅ぎ回るっているのか想像つくかい?」

「よしてください、もう私は医師ではありませんよ。そうですね、私の憶測ですが・・・」


男は眉を下げがちにポツリ、ポツリと答えた




「お菊様について、嗅ぎ回っております」



貴方様なら、この意味を理解できますよね


老人の重苦しい言葉に朝波は眉をしかめた。しかしそれは一瞬の事であり、それは直ぐ様消え威厳すらも表し始めた




「姫については誰も情報を提供などしないだろう。何故なら・・・・














限られた者しか姫を覚えていないからな」






二人の間に風が吹き込んだ。遠くを見つめながら老人はポツリと呟いた




「これも、亡き武則様が施した力ですな」



「だがそれは、姫の願いでもあった」

そんな呟きを朝波は聞き流さずに、不意に昔を思い出すのであった




−−−−−−−



「私が居なくなったら、どうか私の記憶を消してください」

弱々しい声音で話す女性に武則は反論した

「何故その様なことを・・・!」

女性は反論する武則にふわりと微笑んだ

「武則様・・・私の存在は何れ災いを招いてしまう可能性があります。それは秋影とこの子にとって足枷になってしまいます」


女性はそう口にすれば、自らの膨れた腹を優しくなでた



「だから・・・お願いしますね。殿・・・」



可憐に優しそうに微笑んだ彼女に武則の傍にいた朝波は何時までも脳裏に焼き付いたのであった