迷姫−戦国時代

暫く歩いてると向こうに町ほどの数ではないが人だかりが出来ていた


途中ですれ違う娘達の髪にはどれも色鮮やかな櫛が目に止まる


どうやらあそこが例の商人がいる所か。そう確信した狛津は自然と顔が綻ぶ

近くに行くにつれ賑やかな場所に興味津々である




「商人さん、これ下さい」
「はい、ありがとうございます」


「あの、し、商人さん。・・これでお願いします」
「ありがとうございます」


「迷ってしまうけど・・・これに決めました!」
「とても良くお似合いです」



可笑しいな、団子屋の看板娘は男しか聞いてなかったんだが女の声もするが・・・。不思議に思いながらも徐々に声の主の元へと近づいていく





漸く辿り着き棚に並べられた櫛を見るとどれも色鮮やかで洗練された美しさがある正しく芸術の様に感じた

櫛を一つ手に取って見てみるとやはり何処かで見掛けた様な・・・。考え事をしてたら不意に横から声を掛けられた

「いらっしゃいませ。お気に召されたのはありますでしょうか?」」

声の主は先程聞こえた娘からだった。否まだ少女から娘へ変化する半ばにかかる年頃だと思う。しかし余所者のしかも商人の娘がこんなにも人の視線を一際引き付けなおも愛らしいのは何とも珍しいんだ

「これを手掛けている者は誰か教えてくれないか?・・・俺も工芸師であってね。色々と話してみたくてな」


「そうなのですか、恥ずかしいですが実はこれ全てが私共が手掛けた物なのです」

「成る程な。どれも一流品だな」

「ありがとうございます。工芸の方に褒めてもらえるのなんて光栄です」

ニコリと微笑む娘にふと疑問がうまれた

「あんた、顔色悪いが大丈夫なのか?」

「!いえ大丈夫です。では話しはそろそろこの辺で・・・」

「あぁ、邪魔して悪かったな。んじゃまたな」

そう返し狛津は美羽から離れ客に接客している男に何かを言うとその場から離れていったのであった




だが狛津は一つだけ失態を犯してしまったのだ


「?何かしらこの紙は・・・」

美羽が拾い上げたのは先程狛津が受け取ったはずの白い紙であった