あれから浬張へ向かっていた楠木は急に馬を止まらせた





何故だ


何故なのだ



楠木の異変にいち早く察知した万助は近くに寄ってきた



「どうしたんじゃ楠木。早う進めるぞ」


「・・・・・せ・・」

楠木が何を話したか分からず耳を澄ませた

「?」

「今すぐ五加木(うこぎ)に使いをだせ。今すぐにだ!」

より一層紅くなった深紅の瞳が万助を強く見つめた



「分かったわい」

長年楠木と共にいる万助は彼の様子に感づき踵を帰し西から南の方角へと駆け出した








ふと綱手を握っている手を見つめた

手に浮き出た血管


幾度この手で殺したかなど今更分からない



儂は全てを殺したはずだ




全て・・・を



だが身体が疼くのだ
身体中が激しく脈打つ







なくせ
なくせ

全てをなくせ


全てをだ









全てを、なくせ



無にしろ







殺したはずだ

なのに未だこの感情を抑える事が出来ぬ



楠木は手綱を引き馬を進めた




ならば時がくれば分かろう



浬張に戻る頃にはあやつも戻るだろう





あの者を連れてな