「祐里香さん、おはようございます。お花見は、どうでした?」

お花見リベンジの結果が気になったのだろう。
あたしが会社に出社早々、先に来ていた真紀ちゃんにロッカ─ル─ムで声を掛けられた。

「おはよう、真紀ちゃん。うん、料理は上手くいったんだけど…」
「料理は?」

料理は上手くいったということは、気持ちを伝える方は上手くいかなかったということなのか…。
てっきり二人はうまくいったのだとばかり思っていた真紀は、聞いてはいけないことを聞いてしまったのではないかと少しだけ後悔する。

「まぁ…」

───料理は上手くいったのよ。
だし巻き卵もバッチリできたし、無事料理教室も卒業と、そこまでは良かったんだけど…。

「稲葉さんとは…」
「それがね、よく覚えてないのよ」
「え?」

覚えていないとは、どういうことなのか?

「あたし、酔っ払っちゃって。自分の中では気持ちを伝えたつもりなんだけど、肝心な部分をはっきり覚えてないのよね」

お花見と言えば甘酒とばかりに持参したはいいが、綺麗な桜を見ながら料理も誉められたことで調子に乗って、例の如く酔っ払ってしまったのだ。
多分、自らも『好き』と言ったはずで、稲葉もそれに答えてくれたと思う。
その後、キスもしたような…。
ただそれが、いくら考えても夢なのか現実なのか、はっきり思い出すことができないのだから仕方がない。
まさか…本人に確認するわけにもいかないし…。

「祐里香さんっ、ダメじゃないですか。大事な場面でそんなっ」
「そうなんだけど…」

真紀ちゃんの気持ちはわかるのよ。
あたしだって、まさか酔っ払って告白したのかどうか覚えていないなんてね…。
こんなことになるとは、思ってもみなかったわけで…。

あ~ぁ…困ったなぁ…。
せっかくのチャンスだったのに結末がこれでは、先が思いやられる。

あたしは大きく溜め息を吐くと、真紀ちゃんと共にロッカ─ル─ムを出て自分の席に着いた。