「えっ、今なんて…」
「好きなの、稲葉がっ。ちゃんと聞いててよ」
「いや、だって…」
「迷惑?」

顔を上げて見つめる祐里香の瞳が、不安げに揺れている。

「そんなわけ、ないだろう?嬉し過ぎて、どうしていいかわからないのに」

まさか、こんな展開が待っていようとは…誰が想像しただろうか?
嬉し過ぎて言葉にならない。

「それって…」
「俺も好きだよ。新井のことが、祐里香が」

稲葉は、祐里香のことを強く抱きしめる。
………やっと自分のモノになったんだ。
もう離さない、離すものか───。

「稲葉…くっ、苦しい…」
「航貴だよ」
「はぁ?何、言ってるのよ。そんな急に言えるわけないでしょっ」

───たった今、気持ちを伝えたばっかりなのにそんな名前で呼べなんて…。
無理、ぜ─ったい無理なんだからぁ。

「だったら、言うまで離さないけど」
「えっ、やだ、ちょっと」
「やだ、じゃないだろう?恋人同士になったっていうのに」
「そうだけど…恥ずかしいもん」
「二人だけなんだから、恥ずかしがることないだろ」

───二人だけっていうのが、恥ずかしいんじゃない…。
だけど、言わなきゃいつまでもこうなのよね。
そっちの方が、もっと恥ずかしいわ。

「こ…き…」
「あぁ?聞こえない」
「聞こえないって、ちゃんと言ったじゃないっ」
「聞こえなかったんだから、もう一度」
「っもう…今度はちゃんと聞いててね」

恥ずかしかったけど、きちんと目を合わせて「航貴」って呼んだ途端に彼の唇が自分のそれに重なった。

「あのさ、こういう時は目を閉じて欲しいんだけど」
「そんなこと言ったって、急にするからでしょっ!」

クスクスと笑ってる稲葉が、もとい航貴が憎たらしいっ!
だって、しょうがないじゃない。
いきなりキスする方が悪いんでしょ!!

「キスするから、目を瞑ってくれる?」
「いちいち、言わなくっても」
「うるさいお嬢さんだなぁ」

今度はちゃんと目を瞑ると再び彼の唇が重なって…。
彼のくちづけはどこまでも優しくて、まだ甘酒を飲んでいないのに既に酔わされてる…。

桜の木の下で二人は、永遠の愛を誓ったのでした。