「熱いから、やけどしないでよ?」
「見た目は、美味そうだな」
「ひと言、余計よ」

「ったく、ひと言余計なんだからぁ」とブツブツ呟きながら、あたしは器におじやをよそってあげると「食べさせてくれないのか?」なんて、これまた余計なことを言うものだから、また後ろに突き倒しそうになった。

「どう?」

自信はあったにせよ、ここでこの前みたいに『塩っぱいっ』と言われたら、面目丸つぶれ。
ここはなんとしても、美味しいと言わせなければ。

「美味いよ」
「ほんと?」
「あぁ、卵も半熟で、出汁もしっかりしてるし。なんだか、いい香りもするんだけど」
「ダシの素に昆布茶だけどね?」

あたしが、出汁なんてきちんととるわけないし、香りは多分昆布茶だと思う。
これを入れると結構、美味しいのよね?

「なるほど、恐れ入りました」
「でしょ?だから、稲葉に教えてもらったらプロ級の腕前になっちゃうわね」
「そうかもな」

彼の笑顔は、すっかり元気になったいつもの笑顔だった。

───真紀ちゃんが言っていたみたいに少しはリベンジできたかもしれないけど、これじゃあまだまだよね。
稲葉が元気になったら、ちゃんと教えてもらわないとっ。

そしてね…。
その時は、自分の気持ちをきちんと伝えるの。
彼の美味しそうにおじやを食べる姿を見ながら、祐里香は心の中で誓うのだった。